がんばる男の子
2012/12/07
テレビの歌舞伎中継を見ていた祖母が言った。
私と歳もあまりかわらない男の子が、重そうなお着物を着て、手足や顔を動かしていた。
”古典芸能コメンテーター”として秀でた才能を持つ祖母が言うのだから、当りだろう。
「あなたもがんばらなきゃね」
「・・・・・・」
しかたがないので、指を動かしに、ピアノの前に座った。
次の彼の記憶は、それから数年を経て。
何の演目か忘れたが、真っ白に塗られた顔を左右に振りながら、ぴしっぴしっと踊っていた。
高い遠いところからの位置で見ていたような気がするので、祖母と歌舞伎座にでも見に行ったのだろうか。
「あの子、いっぱい”おさらい”したんだね」とつぶやくと
祖母は大きくうなずいた。
男の子の名は、中村勘九郎。
彼は、少年から青年になり、夫になり父になり、白髪のまじったおじさんになった。
大人になった彼は、相手の問いに、絶妙のタイミングで返し、思わずにやりとしてしまう。
踊りと同じ、間や切れ味は、そのやさしさと相まって、人をひきつけてやまない。
12月5日 57歳で死去。
私の昭和が、またひとつ消えた。
合掌・・・