家に帰らせていただきます
介護の認定を待っている隣家のおじ。申請から1ヶ月たとうとしているが、まだ結果がこない。
私たちが住んでいる市は、年寄りがどやつといて、毎週水曜日の審査会には、30件とか40件とかの認定をくだすのだそうだ。
待つっきゃないもんね。
おじの痴呆は、この1ヶ月こくこく進んでいるような気がする。
あんなにきれい好きで、朝起きたら、まず敷地の内外を問わず、道を掃く(宮崎弁だと、はわく)。一通り終わったら、新聞を取って来て、神様や仏様にあげるお茶やご飯のしたくをする。それから自分の朝食。
天気のいい昼間は、庭の剪定や草むしり、畑の世話で日がな暮らす。冬といえども、宮崎は緑は豊か。
・・・という一日のルーティーンが、まったくなくなった。ただ、無気力にこたつに入っているか、もの探しをしているか。
1週間ほど前から、おかしな行動がはじまった。
「家に帰らせていただきます」と、帽子をかぶり、靴をはいて、とことこ家を出て行ってしまう。隣(といっても田舎なのでけっこう距離があるが)の家のあたりまできて、たぶん自分がどこにいるのだか、わからなくなるのだろう。ぼーっとたっている。たまたま通り掛かった人がいると、連れて帰ってきてくれる。
それが、毎日。
「なんで自分ちってわからんごつ、なったっちゃろ?」と実の妹あらんだまばーちゃんはじめおばたちは、首をかしげる。
「おとっさんやおっかさんの写真見せても、自分ちって納得せんよ」
といいつつも、嫁に行って以来、農業を働きづめに働いてきて、実家に帰ることもできなかったおばも泊りにきて、兄弟そろって、仲良く食卓をかこんでいる。
「こんなときがくるなんて、夢にも思わなかったね」
おじの介護が、思わぬ幸せな副産物を生んだようだ。でも、肝心のおじは、ばーちゃん以外の3人の妹たちが誰だかわからない。
「妹はおるが、そんげばーさんはおらんど」・・・やれやれ・・・