宮本輝「よき時を思う」

2024/02/27
宮本輝は大学生のとき友達から勧められ、結構読んだ。泥の河、蛍川、青が散る、春の夢、優駿、夢見通りの人々、花の降る午後、錦繍あたりは、のめりこんだ。でも長編の流転の海あたりから、遠のいた。
「よき時を思う」の主人公は、徳子おばあちゃんと四合院。私のかつての家族の在り方とはずいぶん違う普通に生きている人たちがとりまく。彼らの日常にぽかぽかと幸せが浮き上がる。90歳の徳子おばあちゃんが、300万円ものお金を投じて家族と晩餐会をひらく。宝くじがあたって全額投じて地域の堅苦しい人たちを招待した映画「バベットの晩餐会」を思い浮かべていた。人の心はおいしいものでときほぐされていく。私も長生きしたら若い人たちを招いて正装した晩餐会もいいな。お酒が飲めないからずいぶん人生損した気になるかな。法華経の妙音菩薩品第24ってなんだろ?四合院を他人にばらばらに分けることはできるのかな?作者の頭の中の創造の人たちやなりいきに身を任せ、久しぶりにたゆたゆした心地良さがよみがえった。