影絵は踊る~藤城清治展
2013/09/02
出てくるのは、目が大きくて、足をがっと開いて、サンタクロースのような帽子をかぶり、長靴をはき、笛を吹く小人さんや、にぎやかに回るメリーゴーランドの木馬たち。
子供の視線なので、伸びあがるようにみていた影絵のお芝居は、黒一色ではなく、実は極彩色だったのだろうか。
私のなかの深いところにある昭和の記憶が蘇った、宮崎県立美術館での『藤城清治 光と影のファンタジー』だった。
影絵作家の藤城清治画伯は89歳。
素手に薄い剃刀を持ち、紙をすーすーと切っていく姿は、とてもとてもお歳を感じさせない。
80歳のころ、広島の原爆ドームを見て、新たな目標が見つかったそうだ。
「時間をかけないと、本物は見えてこない」
スケッチブック片手に日本のあちこちに出かけ、精密なデッサンをもとに、影絵を制作される。
普通の絵画と見まがうばかりの作品は、東日本大震災の惨状をも残した。
でも、人気(ひとけ)のなくなった福島の一角や岩手の一本松には、あの小人さんがいる!
思うようにいかなかった子供時代に見た小人さんが、私にとって、漆黒の闇の中のかすかな“希望”であったように、震災の傷跡にも、希望がきらきらちらばっている影絵。
半世紀を経ても、私に、いや、生ける人々皆にささやく小人さんの声は、変わっていない・・・。