佇む影

2007/04/19
神奈川県平塚市に住んでいたころ、土曜日夜10時ごろになると、四駆仲間が我が家に集まってきた。箱根湯元にある露天風呂に入りに行くのだ。
2台ぐらいに乗りあって、湘南道路(と呼んでいた)を一路西へ。行きは左に漆黒の湘南海岸、小田原あたりから箱根の山を目指す。温泉宿や土産屋を連ねる山道はうねっていて、上のほうから何台もバイクが滑走してくる。車体を倒し、カーブを曲がってくるのだが、反対車線に飛び出してこないか、いつもひやひやしていた。
閉館時間ぎりぎりに露天風呂に着くので、ゆっくり入っている暇はない。お風呂に入りにというより、四駆で夜のドライブが楽しかった。
ある入浴した帰り、夜中の2時近く、車中は私以外男性。別段会話にも加わらずに、窓の外の流れる景色をぼんやり見ていた。海岸線沿いの湘南道路の大磯あたりか、突然闇の中に、明るい2階の窓が浮き上がった。奥から人が出てきた。窓辺に立った。全裸の女性だった・・・。
両腕を上げ、窓のふちを持って、首をかしげ、海の方を見ている・・・。
きっと彼女は自分が見られているなんて思っていないんだろうな。圧倒されるような見事な裸形に、通り過ぎてもその姿を追っていた。
・・・しばらくして「今、裸の女の人が、窓辺に立ってたよ」と言ったら、車中の男ども、騒然となった。
「引き返すぞっ!」といっても、この道は一旦降りないと反対車線には行けない。
「ばかっ!なんでもっと早く言わないんだっ!」だってあなたたち、話に夢中だったじゃないの。
「若いのか、ばーさんか、どっちだっ!」・・・まったく!
あの佇む影は、記憶の中でスローモーションの幻になってきた・・・。