池波正太郎が愛した梅ダッチコーヒー
2010/10/29
私が好きなもの、というより、ご自分が食べたかった、浅草『やっこ』のうなぎと松茸の土瓶蒸し。
宮崎もおいしいうなぎやさん、たくさんあるが、セットで出てくるおつゆは、濃厚なご汁。うなぎも蒸すのではなく、焼くので、どちらかというと歯ごたえがある。
東京のうなぎは、とろけるようにやわらかい。歯の悪い父好み。すまし汁は上品なしたてだ。
松茸は、今年は豊作だそうだが、自分で買うことはまずない。土瓶蒸しは何年振りだろうか。
嬉しそうに頬張る父に、店のおかみさんが話し掛けてくる。
どうも、じーさん仲間としょっちゅう来ているらしい。あの年代は女房を連れてこよう、なんて発想は皆無だな。
下向けないほど、おなかいっぱいになって店を出ると、池波正太郎が好きだったコーヒーを飲ませてやる、という。
夫がのめりこんでいる「鬼平犯科帳」の作者の御贔屓の店か、と興味がわいた。
店の名前は『アンヂェラ』
土曜日の午後だったからか、店は超満員!
これまた父のいきつけの店らしく、どの店員さんとも、談笑している。かつての腕利き営業マンのわざが、90歳近くなっても活きているのか。
席に座るなり「池波正太郎のコーヒー、ふたつ」
それで通じるんだ、と待っていると、出てきたのは、氷をいれたグラスに、楊枝に刺さった大きな梅が。その脇には、コハク色の液体とガムシロップ。
グラスにコーヒーを注ぎこみ「梅ダッチコーヒーでございます。どうぞ、ごゆっくり」
コハク色の液体は、梅酒。
私はアルコールがだめなので、少しだけコーヒーに入れて飲んでみる。
「どうだ、うまいだろ」と、得意げに父が私の顔を覗き込む。
水出しコーヒー(ダッチコーヒー)に梅酒とは。
粋な東京人の考えることだ。