魚屋さんの矜持

2009/01/24

魚ヘンの字の読みが、幼いときから得意だっためいっこ。

彼女が学んだ場所は、文字通り、魚屋さんの店先。墨黒あざやかな、それはそれはみごとな字で書かれた、お魚の値段の札で覚えたそうだ。

書いたのは、そこの店主、まつうらさん。みごとなのは字だけでなく、夫婦ふたりの店先には、絶品の魚しか並ばなかった。

先日、ある会食で久しぶりにお会いした。82歳になられ、歯はだいぶもげたが、色艶のいい、丹精なお顔は、昔と変わらない。ぐびぐびと焼酎を流し込み、出されたおさしみをつまみ「まあまあだな」

舅あらんだまじーちゃんは、生前まつうらさんの鯵かしびのさしみしか食べなかった。あるとき、店休で別のところからばーちゃんが調達し、まつうらさん風にアレンジして、食卓に出したら「ん?まつうらさんも、こげな魚を仕入れることがあるのか」と一切れしか食べなかったそうだ。

「包丁を研ぐところから、仕事は始まる」ん~なるほど。

「さしみはな、つまの大根も食べんといかん。魚だけでなく、大根も心を込めて切っているからな」切れない包丁は許せなかったらしく、ばーちゃんをはじめ、ひとの包丁も砥いでやっていた。

酔っても乱れず、うんちくは、魚にとどまらない。宮崎の歴史、神話の話、文学の話、植物の話・・・

宮崎の片隅で、小さなお魚屋さんを長年営んできた、ごくごく普通のご隠居さんなのに、一本筋のとおった、粋な生き方を見せていただいた。

まつうらさん、どうかお元気で・・・