Mさんのラブレター

2007/08/09
宮崎の名だたる酒造メーカーの部長をされていたMさんの訃報を聞いたのは、数日前のことだった。
経営者の勉強会で、ここ何年かご一緒していた。
その勉強会は、毎回宿題が出る。私はちゃかちゃかと書き込んで乗り込んでいくのだが、Mさんはたいてい白紙。私の隣にすわって「あらんだまさん、宿題やってきた?」にまっと笑ってうなずくと「写させてよ」と宿題をひろげる。小学生の宿題じゃないんですから、よその会社の事例を写してどうするんですか。まだ、時間がありますから、はいはい、書いて書いて!と言うと、子供のようなてれた表情をみせて、書いておられた。
そのMさん、社命で、ある会に入っておられた。活動内容はよくわからないが、経営の面からだけではなく、道徳や愛などから、お店や会社を良い方向にもっていこうとする全国組織の会らしい。
そこで、奥さんにラブレターを書きましょうと教えられたと言う。「あらんだまさんもラブレター書いたらいいよ」とおっしゃるので、私たちは毎日アイラブユーって言いあっていますからと言ったら、まじめなMさん、本気にして「それならいいわ」と大きくうなずいた。
ある日「ちょっと聞いてよ」と、背広の内ポケットから手帳をとりだし、中にはさんであった達筆に書かれたメモを、私にだけ聞こえるように読み上げた。まさしく、それは奥様に宛てたラブレター。「ありがとうは、ちゃんと口に出していわんと、伝わらんとと。もうじき退職だしな」と、ちょっと自慢げだった。
・・・それが、たしか去年の終わりごろだったと思う。
『神様は寝首をかく』と夫の死に際して田辺聖子さんが書いていたが、Mさんの奥様にとって、退職半年後のこの訃報、そんな感じだったのではないだろうか。ラブレターは何通受け取られたのだろうか・・・。
心から、ご冥福をお祈りする。